あのころが香るカルチャーに囲まれて
岩手県遠野
このくらしの主
ミヤモト タクミさん(26歳)
岩手県奥州市出身。高校卒業後、3年間岩手県職員として教育委員会に所属配属し、学校事務職員として勤める。この時期にゲストハウスの魅力に惹かれ、さまざまな場所を訪ね、出会った人をきっかけに徳島県神山町へ引っ越し。「WEEK神山」のスタッフとして、宿泊業や農業に従事する。その後岩手に戻り、「株式会社COKAGE STUDIO」に入社し、2年ほど編集・デザイン業やカフェと託児所、ギャラリースペースの運営に携わる。2019年4月からフリーランスとなり、企画・編集・執筆などの仕事を行う。同年7月からはNextCommonsLab遠野に参画し、広報やカフェのコーディネート、ディレクションなどを行いながら、個人での仕事も続けている。
撮影時期:2020年9月~11月
■ミヤモト タクミさんの活動
妻が仕事へ行く前に朝ごはんを作って置いていってくれる
朝8時から9時の間に起床。
いつも、妻が仕事へ行く前に朝ごはんを作って置いていってくれる。この日はいちじくののったパンとコーヒー。だいたいパソコンの前に座ってメールやメッセージを確認しながら、朝食を食べてコーヒーを飲む。1時間くらいで準備を済ませて仕事を始める。
昨年秋ごろまで住んでいたアパートを引っ越し、今は遠野のまちなかに家を借りて住んでいる。
この日は午前10時から、NextCommonsLab(以下:NCL)で週に1回行なっているミーティングに参加。個人の仕事とNCLの仕事はそれぞれ週の半分ずつ行っている。
NCLは、「あらゆるセクターとの共創により、社会をアップデートするための実験と実装を行う」プロジェクト。第一拠点として立ち上がった遠野では、個性あふれる生き方を増やして地域資源を活かしたプロジェクトを生み出すローカルベンチャー事業に取り組みながら、インタラクティブスクール「つくる大学」の運営などをしている。
メンバーはほぼ同世代で、Uターンした人や東京から移住した人、インターン生や地元出身の人までそれぞれ。この週1回の定例ミーティングでは、それぞれが担当する事業の報告や情報共有を行っている。
NCLの仕事ではカフェ「CommonsSpace」のコーディネートを担当している。メニューを考えたり、店内のレイアウトを検討したりする。
12時ごろ、お昼ごはんは妻が作ってくれたお弁当を食べる。
野菜を中心にしたメニューで、この日は以前住んでいた徳島から送ってもらったすだちも入っていた。ご飯の上にのっている山椒は遠野産。妻は料理関係の仕事をしているので作ってくれるご飯が美味しいし、健康を考えてくれるのでありがたい。
仕事の合間に休憩するときは、自分の時間を過ごしていたいので、出来るだけ家に帰って一人の時間を設けている。
料理名のない料理が食卓に並ぶ
この日は外で仕事をしていて、16時ごろに帰宅。妻は朝早く出て14時には帰宅するので、帰ると家にいる。
19時ごろ、妻と二人で夕飯を食べる。
妻はその日の冷蔵庫に何があるかで作るものを決めるので、料理名のない料理が食卓に並ぶ。また、調理には南部鉄器をよく使う。地元・奥州市にある老舗の会社が製造しているもの。たまにストーブに鉄器を乗せてご飯を炊いたりもする。
くらしの中で使うものは、自分が納得するものを買いたいという思いがあり、取り急ぎで買い揃えることがないので、キッチン周りが整うのに時間がかかる。
野菜を買う時は、知り合いの方から買うようにしている
買い物は基本的にスーパーでするが、野菜はいただくことも多い。
知人からたまたまもらったり、実家が農家なので帰った際にもらったりする。野菜を買う時は、知り合いの方から買うようにしている。
この日買った野菜は、県内の農家さんが栽培している在来種の野菜。どれもシンプルな味付けでも十分に美味しい。
夕飯後、20時くらいに仕事を再開。この日は記事を書いていた。
フリーになって1年半が経ち、いろんな人たちと仕事をできることが楽しい。個人での仕事の内容は、企画が5割、編集と執筆が3割、そのほかの仕事が2割ぐらい。
漫画本のデザインをしたり、遠野にあるお店のショップカードを作ったり、制作案件の進行管理や企画・提案をしたり、仕事の種類はさまざま。
今は身近な人たちからいただく案件が多いけど、自分から発信・企画・提案をすることで仕事を生むやり方にも興味がある。自分が持つスキルを活かすことで、もっと他の人のためにできることがあるんじゃないかと思っていて、新しくやってみたい気持ちがある。
夜に仕事をするときの隙間時間にはYouTubeを見ることもある。お笑いが好きで、1番好きな芸人は明石家さんまさん。さんまさんが言っていることをメモしたりもする。
仕事を終えて寝るのはだいたい日付を超えた25時ごろ。
「つくる大学」の講座をオンラインで実施した
この日、NCLが主催している「つくる大学」の講座をオンラインで実施した。
「つくる大学」は、2016年に始まった「つくる人」 が集まる市民大学 。「つくられたものを消費するだけではなく、欲しい未来を思い描き、その未来へのプロセスに関わり、自らがつくる人になる 」というテーマを掲げ、市民の方向けに遠野の自然、歴史、文化などを学びながら自らの手でつくり出す体験ができる場を設けている。
今回の講座は、岩手県遠野市の移住・定住支援団体「で・くらす遠野」が年4回発行する会員向けの広報誌の制作ワークショップ。プロのデザイナーやライターが伴走しながら、市民の皆さんが企画会議と取材・制作を行う。企画会議はオンラインで行い、自分が担当するものを取材に行くという方式になっている。
それぞれの号で特集する地区を変えているので、ワークショップを通じて、それぞれの地区の特徴を知ることができるきっかけにもなっている。
外にいるだけで気持ちいい
この夏からキャンプ道具を揃え始めて、休みの日によく行くようになった。
道具が揃うと、外にいるのにまるで家の中のよう。これからはより自然に近い状態で行うキャンプができたらいいなと思っている。キャンプを機に今まで以上に仲良くなった人もいる。
ここは奥州市衣川という、映画「リトルフォレスト」の舞台にもなった星や空気が綺麗な場所。自然をもっと感じたい。外にいるだけで気持ちいい。
気がついたら緑でいっぱいの景色を走っている気がする
個人の仕事では遠野から県内のどこかへ車で移動することが多い。
岩手は広いので、車でも移動に時間がかかる。お気に入りの景色は、遠野から水沢へ向かう時に山を越えるところ。運転中はいろいろ考え事をして頭を整理する時間にしているから、風景を意識的に見てはいないけれど、気がついたら緑でいっぱいの景色を走っている気がする。そういう景色だから集中できるのかもしれない。
小さいころ、ここの木を切って薪割りをしたり、木や植物を植えたりするのを日常の風景として何気なく見ていた
実家は県内の奥州市(その中でも市街地から離れたところ)。遠野からは車でちょうど1時間ぐらいで、月に2〜3回は帰っている。
家の裏には屋敷林(防風などのために家を囲うようにつくられた林)があって、子どものころはカブトムシをとりに行ったり、鬼ごっこをしたりする遊び場だった。今見ると懐かしい気持ちになる。
実家には父、母、弟、祖父母がくらしていて、祖父母が屋敷林の管理をしている。小さいころ、ここの木を切って薪割りをしたり、木や植物を植えたりするのを日常の風景として何気なく見ていたけど、実家を出た今になってその良さを感じている。
いつか自分も実家に戻って、そうしたくらしができたらいいなと思う。
毎月第3金曜日には金継ぎ教室に行っている。
遠野に住む70代の先生が教えてくれる。気に入っている器が壊れても直して使えるのがうれしい。こうして無心で作業することがあまりないので、息抜きにもなっている。
ここを通じて世代間を超えた関わりを持てるのも良い。年齢が違っても、感覚が似ている人たちとコミュニケーションできる場になっている。
だから東京への憧れが強い方だと思う
読書が趣味。ジャンル問わずさまざまな本を読む。
最近は1970年代の編集のあり方が好きで、そのころ活躍した北山耕平さんや片岡義男さんなどの本を読んでいる。書き手に影響力があった時代の「その人が書いているから読みたい」と思わせる文章や言葉が好き。
そのころの編集をみると、がんがん自分の言葉を入れて自己表現していて面白い。今は自分の名前を出さない仕事が多いけど、そういう「自分の言葉」を入れて書くことに憧れる。
自分が大学に行っていないこともあり、都会で暮らして遊んだり、流行の先端でカルチャーに触れたりする機会があまりなかった。だから東京への憧れが強い方だと思う。
買ったばっかりで積ん読している本たちもある。仕事に関することで読みたい本と趣味で読みたい本が混ざっている。いつも3〜4冊同時進行で読んでいて、タイミングや気分に合わせて読みたいものを読み進めている。
生活の中にずっと音楽がある
音楽を聴くのも好きで、作業中や車の中、本を読むときなど、生活の中にずっと音楽がある。
小さいころから好きなのは奥田民生。少し前はFox Academy。最近は、本に書かれていて聴きたくなったビートルズを聞いている。
「booknerd」という盛岡のセレクト本屋の店主がやっている「コーヒーもう一杯」という番組を聴いたのがきっかけで、ポッドキャストもよく聴いている。トークの合間におすすめの曲を流してくれるので、新しい音楽と出合うきっかけにもなる。
いろんな世代の人が集まる場になっている
ここは、遠野の「NōTO GENERAL STORE 」で、遠野に引っ越す前から通っているお店。
オーナーは、ファッションブランド「N−S」(ノース)を運営し、洋服を通じてN(北)からS(南)へと東北の文化を発信している松田成人さん。東京で10代後半からファッションの仕事に携わり、独立してブランドを立ち上げ、地元である遠野にUターンしてきた方。
このお店で服を買うこともあるし、夜にふらっと一人で行くこともある。オーナーを慕って、いろんな世代の人が集まる場になっている。
この日集まったのは遠野に住んでいる人たちで、東京でスタイリストをしていて遠野で農家になった人や、遠野に移住した編集者さん、遠野にUターンした人など、世代はバラバラ。とくに約束していなくても、知り合いの誰かに会えて、オーナーをきっかけにみんな仲良くなれる。
(聞き手:サトウ フミカ)
遠野に暮らし始めて、1年半。自分のくらしが、少しずつ見えてきて、家の中がだんだんと整ってきた感覚がある。また、遠野で一緒に仕事をする人たちや遊ぶ人たちと過ごす時間もとても心地よくて、楽しい。これから歳を重ねたら、自然に近い場所で心地よくくらせる家に住みたいという憧れはある。自分のやりたいことを見つけながら、”奥田民生”のように生きていきたい。