そこに新しいカルチャーをつくる、新卒1年目のくらし

「自分の中で季節による風景の移り変わりって大事だった」

そこに新しいカルチャーをつくる、新卒1年目のくらし

岩手県/陸前高田

このくらしの主
キツヤ アミさん(22歳)

青森県出身。宇都宮の大学を卒業後、在学中にインターンをしていた陸前高田市の高田暮舎に入社。現在は高田暮舎の事業である「山猫堂」で古物のリサイクルを担当している。

■キツヤ アミさんの活動

リンゴ畑が手前にあって、奥に海があるっていうのが、陸前高田ならではっていうか。

大体朝、これは8時ぐらいの気がします。部屋の窓から好きで。ここ2階なんですけど、2階から廊下へ出た階段の左にある窓が一番好きですね。

―今、どういったところに住んでるんですか。

空き家だったところの2階に住んでいて。陸前高田って広田半島が飛び出てるんですけど、中心市街地と広田半島の間の辺りに住んでいて。広田半島は海で周りがほとんど囲われてるんですけど、海が見えるんですよ。場所によって見える景色が違います、この家は。部屋の窓から見ると海が見えて、階段側の方から見ると山。後ろに山があって、正面側に海が見える、という地形です。

―今1人で住んでるんですか。

今は2人でシェアハウスしています。もう1人住んでいて、私は2階に。

―なるほど。普通に不動産屋さんとかで見つけて?

この空き家は、コエトさんが所有しているんです。山猫堂の。コエトさんが何軒か空き家を持っていて、この家はコエトさんの家のすぐ近くなんですよ。

コエトさんがここの地域の盆踊りとか、昔復活させたんですけど、そのときに東京から友達と毎月車で通ってたときに、泊まる家みたいな感じで使っていて。東京から通ってたメンバーがみんなで直したりして…直したりって言っても本当に水回りとか最低限の部分だけで…そんな感じのお家で。コエトさんが住み始めた時に「使ってないからもらってよ」みたいな感じで相続した。高田暮舎に地域おこし協力隊で来た人とか入れ替わりで住んできたようです。

―なんで窓からの景色を撮ったのかなって、不思議に感じました。

やっぱなんか窓から海が見えるっていうのがすごい印象的で、この家を最初に見たときに。海の景色がすごい綺麗な場所だって。リンゴ畑が手前にあって、奥に海があるっていうのが、陸前高田ならではっていうか。リアス式だからこそ、山と海がどっちも近くにあるっていう。

地元は平野だったので、田んぼと遠くに見えるでっかい山みたいな景色だったので、海がこんなに近いんだなっていうのはいっつも感じる。でも陸前高田にいると、あんまり海が近い感じがしないんですよ。防潮堤も高くって、あんまり潮の臭いもしないし、でも家に帰ると毎日海が見える、それが不思議な感覚だなと思う。

 

 

ダンボールじゃなくて、ある物で引っ越しした。

これが部屋の写真…私まだ引っ越したばっかりなので、まだごちゃごちゃなんですけどスーツケース転がってたり、あと、洗濯物を干す場所がないから今もこうやってかかっていたり。

―今って就職してから何年目なんでしたっけ。

もう就職したて、新卒なので。4月入社。

―インターン中に僕らと会っている?(※3月に陸前高田でお会いしました)

インターンしてたのが去年の夏なんですよ。2022年の夏にインターンシップをしてて、そのインターンシップを延長していくうちに就職が決まって4月から入社みたいな感じだったので。だからお2人にお会いしたのは、卒業前で就職が決まって、山猫堂のオープン準備しなきゃいけないっていうので、卒論書き終わった後の大学生最後の春休み期間中ですね。もう卒論書き終わった1月中旬ぐらいからもう3月のずっと末までほとんど高田にいたので、最後の春休み全部山猫堂の準備に費やしたんです。

引っ越しも宇都宮に行くタイミングあるときに、スーツケースに物を詰めて、それを高田に配送するみたいな感じの引越しを進めていたので、ちょっとずつこっちに物が増えていく感じで。このスーツケースはその名残で、旅行したのではなく、この中に引っ越しの荷物が入っていて、それが転がっている、みたいな。だから、ダンボールじゃなくて、ある物で引っ越しした。

―そうか、引っ越したばっかりだけどダンボールがあるわけじゃないから、旅行者感があるんだ。

 

 

家から出てくるときですね。ちょうど梅の花が咲いてた時です。

―これって、例えば実家とか、学生時代住んでた家とかと比べてどうですか?家の周りの感じというか。

やっぱ全然違います。私が住んでいた家は出るとマジで田んぼみたいな(笑)田んぼ、山、みたいな。地元は本当に平らで。梅の木とかも無かった気がしていて。

あと、前の家主さんが植えたんでしょうけど、椿が庭に植えてあって。季節によってお花がちょこちょこ咲いて、この時は、毎日梅の花が咲いていて。

―たぶん文化圏は近いけど、気候的に陸前高田の方がもうちょっと暖かいから、植物の感じがちょっとずつ違うかも。

最近もう今は藤がすごいですね。こんなに自生してるんだなって。山に住んだことがないから。

―ここで車に乗って出勤すると。出勤するときも市街地の方に向かうってことですね。

山猫堂に直接向かうときもあれば、市街地の事務所の方に向かうこともあります。

 

 

私このスーパーめっちゃ好きで。

このスーパーは山猫堂に行くとき寄りますね。私このスーパーめっちゃ好きで。

 

これはスーパーの横に付いている産直で、土日祝限定で、100円均一で安い。

 

看板の下になにか置かれている。

―こういうの、愛おしいよね。自作の。どういうところが好きなんですか?

ここのお惣菜がめちゃめちゃ好きで。総菜がとにかくうまい。お魚もちゃんと生鮮の魚を下ろしていたりとか、野菜も産直のお店がくっついてて、それも安い。

ここ山猫堂の方から歩いて10分ぐらいのところにあるんですけど、夏インターンシップのときは車がなかったので、日々の生活を歩いて行動していて。私はローカルなところが好きなんで入ったら、めっちゃ美味しくて。そのことを高田暮舎の人に「ここのスーパー行ったことありますか?お惣菜めっちゃ美味しいですよ!」って言って、それまで高田暮舎の人、一人も行ったことなかったらしいんですが、私が広めた(笑)。

総菜も、ちょうどいい煮物とかお浸しとか、地元のめっちゃ料理が上手なおばあちゃんが作ったような感じで。健康的だし。レパートリーも多くて、サムギョプサルとかある。

 

 

1回この駐車場を手作りしたんですよ、みんなで。

これが山猫堂の駐車場ですね。

―これ、でも私達が行った駐車場じゃないところですね。

その時、駐車場はなかったか整備できてなかったか。1回この駐車場を手作りしたんですよ、みんなで。ただの草っぱらだったところに砂利をスコップではらって。

―え、そこからやる?

手作りしたんですけど、どろどろになっちゃって、結局お金払ってやってもらった。

―つらい…(笑)。ダブルでお金かかってる。

(笑)。すごい手作りでやっていて、看板も、建具とどっかのでっかい襖を真っ二つに切ったやつにコメリで買ってきた棒を刺して。

―この、用水路?すごい広いよね、幅が。ここちょっと危ない。

だから、鉄板が重要なんですよ。一応、これ沢なんです。山猫堂があるところって竹駒っていう地域で、そこの仲の沢っていうところにあるんですよ。沢ごとに竹駒地域って部落が分かれていて、この沢が仲の沢っていう名前だから地域も“仲の沢”で。

―沢で分けるんだ、面白い。

そうです、道路が沢に沿って分かれていて。

―じゃぁ、降りて遊べるような感じなんだ。

遊べます。きれいな水が流れていて、魚がいたりする。

 

 

古着っぽい服とか、地方にいると諦めなきゃいけないのかっていうとそんなことない。

山猫堂までの道です。オープンした後ですね。

―オープン後どうですか。イベントやったりとかっていう感じなのか、それとも人が普通に来るよみたいな感じなのか。

最初の1ヶ月、3月から4月の上旬にかけては、めちゃめちゃ人がワーッて来ていて。テレビとかにも取り上げていただいたんで、それを見てきてくれた人がすごい多かったんですけど、4月下旬からだんだん人が引き始めてきちゃったので、めちゃめちゃポストカードを持って営業に行って、ポストカード置いてもらったり、宣伝して。あと、お店自体がお昼の1時から夜の10時までやっているんですけど。

―お、10時までやってるのか。

なかなかやっぱり夜に外に出る習慣がこっちの人ないから、夜にイベントをやろうみたいな感じで。今は、焚き火をしたりとか、好きなジャケットのCDもみんなで持ち寄って聴く会とか、さらっと読める短編を持ってておすすめし合うとか。

―いいですね~。やってみたい。楽しそう。イベントに結構人って来ますか?

そうですね、ちょこちょこ。最初は知り合いベースで来てくれてたんですけど、2回目、3回目からは、新規の方が入れ替え立ち代わりで20人ぐらい来てくれている。知り合いづてで誰かが誰かを連れてリピートしてくれる人が最近増えてます。営業時間中に焚火するとか、最高ですよね。あと、私はまだまだ音楽とかすごく詳しくないですけど、教えてもらえる場がある。詳しい人と繋がれるのが嬉しい。それが地方で出来ているというのがいいですよね。

―うんうん、わかるわかる。

やっぱり、宇都宮や東京にいたら、そういう機会が多いのは当たり前なんだけど、陸前高田にいてそういう機会があるというのは嬉しい。

―文化的なものがあるっていうは強いですよね。

身近に、本とか音楽とかカルチャーがあって、それを表現していい場所があるっていうのがすごい嬉しいし。服装とかも古着っぽい服とか、地方にいると諦めなきゃいけないのかっていうとそんなことないし、むしろ山猫堂感を出すために「逆にそのままであってくれ」って言ってくれる。髪型とかも逆にちょっと強めでいった方が、雰囲気出るからって。嬉しいですよね、普通の会社だとできないから。

 

 

―出勤の時間はどのくらいなんですか?

出勤の時間が大体9時か10時。コエトさんの子どもの保育園がないときは、ここでみんなで子守するっていう。

―めっちゃいいじゃん、それ! 

 

 

―アトリエってどこでしたっけ?

入ってすぐ右側ところですね。

―こんなに物あったっけっていうくらい物が多い。

この日はちょうど引き取りに行ってきたからかな。増えたり、減ったりするので、常に。空き家から引き取ってきた物をここに置いて、ここで再生、値付けしたものが、店内に並ぶというサイクル。

―なんでアトリエって名前にしたんですかね?

工房的なイメージにしたかったんですって。ここで子育てワークショップしたり、家財を綺麗にする体験をしたりとかしてますね。

―制作をするためのっていうことじゃなくて、店内で売るとか、人を呼んでイベントをしたりとかそういうときの作業場っていう意味でのアトリエですね。

 

 

自分でその空間を作ったりみたいな経験も楽しい。

夜終わるのが遅かったりするので、そのままキッチンで飲み会とかするんですよね。

―イベントの時じゃなくて、準備とか過程が面白いよね。

そこが一番楽しいかもしれないですね、みんなで作る過程とか。自分でその空間を作ったりみたいな経験も楽しい。

―職場って普通はコンビニとかで買ってきたもので済ましちゃうところを、ここの場合、作って食べるから、なんか面白いよね。

普段はKDマートで買ったお惣菜を食べるんですけど、キッチンも使えるから。一番最近あったのは大家さんから「タケノコ採る?」って言われて。すぐ隣にある竹林にたけのこがにょきにょき生えているのを採らせてくれて。タケノコを収穫したら、ちょうどコエトさんのお義母さんが来ていて「タケノコ、すぐあく抜きしないといけないから」ってキッチンですぐ処理してくれて、タケノコご飯作ってくれた。そんなこと普通の職場じゃ起きないことが起こるのが楽しいです。

―ここでしか起こらないことがあるのが楽しいよね。

 

 

山猫堂の日でも途中に高田暮舎の事務所に行くこともあるんです。山猫堂のシフトがない時は、あんまりないですけど、書類を取りに行ったり、印刷しに行ったりするために事務所に行くこともありますね。

―事務所に行っても書類をちょっとなんかしに行ったりとかっていう感じで、デスクワークが発生するわけじゃないってこと?
発生しないかもしれないですね。この時はなんだったかな…。こっちのメンバーに共有しなきゃいけないことがあったかなんかで。

 

 

で、お昼ぐらいにパン屋さんが突然事務所に来て。

―なんでそれが起こったん?(笑)

移動販売のパン屋さんが来るんですよね。中心市街地を回ってるんです、「買いませんかー?」みたいな感じで。事務所らしいなーって。

―市街地だからか。結構山猫堂と近いのに雰囲気が全然違うよね。

そうなんですよ。その事務所の建物もですけど、中心市街地が津波で流されて復興した町なので、暮らし方も都会っぽいし、建物の中身も都会っぽい、使ってるものも最新のものがっていう…。

プリントとかラミネートとかするには事務所に行かないといけないんですよ。山猫堂にあるのはめっちゃでかいプリンターだったり、古いものしかないから。事務所に久しぶりに行ったら、「あ、プリントってこんな簡単にできるんだ」って感じて。
-周りも違うもんね。

事務所の周りは真っ平ですからね。しかも海も山も見えない。

 

 

「やりたいことをやりな」みたいな感じなので、人がいるので事業がある。

―ここでメンバーに何か共有していたっていうことですね。暮舎さんってメンバーどのくらいなんですか?

地域おこし協力隊が3名、プロパーが3名、理事が3名、大体10人前後ぐらい。動いてる社員が6、7人とか。

―事務所にいる方々は協力隊が多い?

そうですね、委託事業の空き家バンクと移住コンシェルジュ。

―例えば異動になって、山猫堂じゃなくてこっち側で働いてくださいっていうふうになったとしたら、そこはどう思いますか?キツヤさん的に。

高田暮舎の仕組み的にそういうのはないんじゃないかな。委託事業は委託事業の人で、自主事業は自主事業の人でやっているので。

あと、高田暮舎の理事のスタンスが「やりたいことをやりな」みたいな感じなので、人がいるので事業がある。かなり俗人的なところが高めです。

 

 

海が近いのに、やっぱり遠い感じがするんです。

海がこんなに見えるんだったら行けるんじゃないかって思って行ったら、山降りていって近づくにつれて海が見えなくなって。防潮堤が工事中で登ることすらできなくて。

―2月28日までって書いてあるけど、登れなかったんですね。もう期限が過ぎてるはずなのに。登れたとして、浜になっているんですかね?

浜ですかね、どうなっているかすらもわからない。

―「みんなで海行こう」とかにはならないんですかね?

ならないですね。海が近いのに、やっぱり遠い感じがするんです。日常の中に海が出てこない。それが不思議。

―確かにね、松原が流されてしまったのもあると思うけども、遮るものないから風もビュンビュンだし、海と人を守るためのものも防潮堤っていう人工物しかなくて、これまでたぶん林があったりしたんだろうけど、海近づくについて本当にそれがなくなっていて、なんかちょっとね、考えてしまうことがある。

この時は断念して帰ってきた。海岸に行けば見れるんですけど、そこはちょっと歩いて行くには遠くて。「散歩してちょっと海まで」ができないんだと。

―私達は千葉に住んでるから九十九里とか行きますけど、結構すぐ海に出られるよね。

高田は釣りする人は海へ行くけど、釣りしない人はあんまり海に行かない。気仙沼や大船渡だったら港だから海が見えて船がいるのも見えるけど、高田はそれも無いし、海と街の間に距離ができてしまっている感じがする。

 

 

改めて思うと、自分の中で季節による風景の移り変わりって大事だった。

―海が綺麗。海が見えるのが夕陽が見える方向だからかもしれないけど。

そうですね、夕方に帰るとすごい綺麗。いつも通勤と帰るときは本当に景色が綺麗で、夜も星がめちゃめちゃキレイ。やっぱりその景色の綺麗さは、嬉しいですよね。それだけで、癒されるというか。地元はすんごいもう平らだったし、星空は綺麗だったけど、海がキラキラ見えるのはいいですね。

-大学時代は割と都会だったんですか?住んでいるのは。

宇都宮の大学の近くだったので、中心市街地ですね。

-そうするとやっぱり、地元に近い所にだいぶ戻ってきた感はあります?

やっぱりそれはありますね。宇都宮に行ったとき最初は便利で、自転車でどこでも行けていいなと思ってたんですけど、やっぱり星が見えなさすぎとか、空が見えなくて天気が予測できないとか…。

改めて思うと、自分の中で季節による風景の移り変わりって大事だった。宇都宮に行ったときは、冬も雪も降らないし、景色が変わらないですよね、あんまり。植物とかも街路樹がちょっと花咲くとかぐらいで。風の匂いとか星座の移り変わりとか、花が咲くとか、虫の声。(こっちに来て)4、5月に入って一気に夜が騒がしくなったんですよね。2、3月すごい夜がシーンとしてたけど、4、5月ぐらいからゲロゲロうるさくなって。やっぱり自分にとってそういうのが大切だった。

(聞き手:カトウ ミワコ)

もうちょっと高田の暮らしが知りたい。もちろん山猫堂で面白いことをしたいというのはあるけど、暮らしと文化がくっついているようなところ、芸能だったりとか、もっと知りたいなと思っている。