しょうがでつくる新しい農業のかたち【秋のくらし編】


このくらしの主:キクチ ヤストモさん(36歳)

千葉県出身。東京で建築の内装業の仕事につく。2011年の東日本大震災で、母方の実家がある陸前高田の被災地を見て、“食”の重要性を痛感する。
30歳を機に陸前高田に”孫ターン”。寒さの厳しい避難所生活を目の当たりにして、冷えに効く”しょうが”に注目。今後の超高齢社会を迎えるにあたって可能性を感じ、農家だった祖父の農地を使ってしょうが農家を始める。現在は陸前高田の母の実家で両親+犬一匹と暮らしながら、農家としてしょうがの生産活動のみならず、プロモーションやマーケティングなど幅広く活動している。

岩手の生姜 三陸ジンジャーInstagram:https://www.instagram.com/36seasideginger/

 

キクチさんのキーワード
#陸前高田 #30代 #移住 #Iターン #孫ターン #農業 #畑 #しょうが #犬 #マーケティング

撮影時期:2019年7月~19年12月

 


 

 

10月下旬、しょうがを収穫する。
この時期になると、直径20~25cmくらいの大きさに育って、1株で1kg弱になっている。霜が降りる11月上旬までに掘りきらないとしょうがが傷んでしまうので、時期を見計らって10月中に収穫しきってしまう。
畑があるのが傾斜地で機械が入らないため、手作業で掘っている。収穫したしょうがは一列に並んでいる籠に入れ、乾燥しないように土をかけて袋でくくってその後冷蔵庫へ移動させる。

 

 

収穫には多くの人手が必要なので、家族や親戚以外に地域の障がい者福祉施設の方たちにも手伝ってもらっている。職員の人や家族の人も含めて多いときは12~13人くらいで作業する。ここ数年手伝ってもらっていて、天候などフレキシブルに調整できるのがありがたい。最近はこういう農家と福祉の連携が浸透してきている。
作業は、ショウガを掘る人、切り分ける人、運ぶ人と分類されており、施設の職員さんがそれぞれの個性に応じて仕事を割り振ってくれる。

 

 

収穫したしょうがは、直売所や飲食店への「販売用」、粉末などに加工する「加工用」、来シーズン畑に植える「種子用」に分類する。病気などのリスク回避のため、しょうがの畑と別の作物の畑を毎年交代させる必要がある。計画通りに収穫できないとその後の販売に大きく響いてしまうので、リスクと隣り合わせでもある。

 

 

収穫後、しょうがの購買層を増やしたり、販路を開拓するマーケティング時期に入る。
ここは大船渡にあるJA施設での青空市。地元の人が来てくれるので、地元への認知度向上のためにこうした機会はできるだけ出店している。
東北は保存食文化があり、つくだ煮や漬物などのレシピが好まれるので、試食などを用意して持っていく。そうしたレシピは来場する子どもが自立して自分の身体のメンテナンスに興味がある50代~60代には受け入れられやすい。お店には農業もサポートしてもらっている親戚のおばちゃんに立ってもらって、作物の特徴や保存方法、調理法などを話しながら売ってもらっている。自分のような若手よりもお客さんの世代に合った人から売ってもらった方が信頼される。

 

 

こちらは地元でのファーマーズマーケットでの出店。
大船渡の青空市と比較して20代~40代の若い層が来るので、ここでは”ジンジャー訴求”。南部鉄器でホットジンジャーを作ったり、ジンジャーシロップの販売などをメインにしている。
直接販売する時は来店する世代がどう使うか、使い方をイメージしてそれぞれに合った提案をするようにしている。

 

 

直接販売のほか、提携した岩手県内の飲食店に収穫したしょうがを卸している。
販路は人脈やSNSなどを活用して自分で広げていく。料理人は横のつながりが強く、いいという商品は同業種の人たちにつながってくれる。今ではイタリアンから日本料理の小料理屋、最近ではヴィーガンアップルパイ屋など、様々なジャンルのお店で使ってもらっている。オーナーと話が盛り上がって、しょうがとニーズがマッチするのがおもしろい。

 

 

宣伝も兼ねて”ジンジャーナイト”というイベントもしている。
知り合いの料理人に協力してもらい、日曜日にレンタルスペースでしょうが料理を振る舞う。全部の料理にしょうがが入ったしょうがづくしの料理イベント。それぞれの料理は誰でも作れるようなレシピにして、買った後に作ってもらえるようにしている。
参加者は15人くらいで、移住者や地域おこしなどに興味のある人、役場の関係者などが来てくれている。直接タッチポイントを作って、コアな理解者を増やす目的で開いているので、赤字覚悟、採算度外視。

 

 

12月になり、陸前高田から少し離れた遠野市の酒造メーカーである遠野醸造と期間限定で「ショウガビール」を作ることになった。
加工についても積極的にやっていて、今回遠野醸造の方と一緒に作ってみないかという話が出て実現した。1か月くらいしょうがをネットに入れて漬け込む。生ビールしか出していないため、イベントかお店でしか味わえない。

 

 

仲の良い移住者や地元の人と交流会も開いたりする。
ここは箱根山テラスという交流の場もある宿泊施設。バーベキューをしながら、情報交換しあう。中には地元の人もいて、自分のような移住者と地元の人の通訳のようなことをしてくれている。陸前高田自体も移住者の受け入れる土壌がだんだんとついてきたと思う。

 

 

陸前高田に移住して農業を営んで6年、ようやく事業が軌道に乗りつつある。農業自体は弱体化しているから、新しいことをやっていかないといけない危機感がある。これまでにような大規模農業を目指して稼ぐというより、これからの農業は生産からマーケティングまで自分で考えて新しい農業のスタイルを確立していかないと、と思う。

 

 

 

”農業ってなんてクリエイティブなんだ!”
しょうがの生産だけでなく流通まですべてを手掛けるキクチさんのお話を聞きながら、初めてそのことに気づきました。
漠然と思っていた農業の寡黙なイメージを、良い意味で壊してくれたキクチさんの農業スタイル。
若手の生産者との繋がりや移住者コミュニティなど様々な人との交流も、きっと彼のクリエイティビティに刺激を与えているんだなと思うと、陸前高田の環境の良さというものも感じました。



この記事を書いた人:サワモトハジメ