このまちの工芸を語り継ぎ、受け継ぐ

「『弟子』ではなく 『同志』という感覚だ、 と職人さんは言っていた」

このまちの工芸を語り継ぎ、受け継ぐ

岩手県花巻

このくらしの主
コンノ ヨウスケさん(24歳)

三重県出身 。 両親が転勤族で山口、秋田、宮城と各地を転々とする。高校3年間は岩手に住み、大学で上京するも、高校時代に過ごした岩手への思い入れが強く、大学時代から宮古市でボランティア活動を行う。元々ものづくりが好きだったこともあり、珍しい伝統工芸枠で募集していた花巻市の地域おこし協力隊に大学4年生で応募し、採用される。大学在学中に花巻市へ移住し、今は協力隊として、まきまき花巻という市が運営しているメディアで伝統工芸の職人たちを取材しつつ、商品開発などのプロジェクトを行っている。
撮影時期:2020年4月~7月

■コンノ ヨウスケさんの活動

朝ごはんは食べずに支度をしてすぐに出る

朝8時頃に起きる。朝はギリギリまで寝ていて、朝ごはんは食べずに支度をしてすぐに出る。

この家は最近引っ越したばかりの家。市が管理している住宅で、農業従事者や地域おこし協力隊なとが住むことができる平屋の3DK。今ここでは彼女と2人でくらしている。

東京でのアパート暮らしは最低限のスペースで生活していたため、窮屈さを感じていたが、今のこの住居は空間に余裕があり、心にもゆとりを持てる。

 

 

車に乗って、仕事場に出勤する。

家の前が駐車スペース。油断してると雑草が生い茂ってくるため、草刈り機で刈る必要がある。草刈り機は知り合いが貸してくれる。とはいえ、窓から自然が見えるのは好き。

 

 

余計なストレスがかからないくらしが気に入っている

通勤途中の風景。職場までは車で20分程。
ここは花巻市東和町という町で、今では岩手の中でも一番落ち着く町。なんでもない風景だけど、見通しが良く気持ちが良い。

元々人混みが苦手で、東京で大学に通っていた頃はストレスを感じながらくらしていたが、今は人混みもなく、余計なストレスがかからないくらしが気に入っている。

 

 

工芸にどっぷりはまっている

職場に到着。9時に始業。
地域おこし協力隊として市役所に勤務している。取材や打ち合わせの日は直行する時もあるが、そうでない場合は役所に出勤する。朝の日課で、その日にやることをタスクリストに書き出す。

両親が転勤族で全国を転々と移り住んだなかで、岩手は高校時代3年間過ごした場所。高校時代の思い入れもあって岩手で働きたいと思っていた。

大学時代に、自分が元々興味のあった伝統工芸の枠で花巻市の地域おこし協力隊の募集があり、応募したところ採用していただいた。今では市が運営するメディアの取材と商品開発とで工芸にどっぷりはまっている。

 

 

午前の作業を終えると、昼休憩へ。

役所から歩いて3分のところにあるいつも蕎麦屋へ。昼食は1人で食べることが多い。1人でいる時間を持つことで、気持ちをリセットすることができる。

 

 

「弟子」ではなく「同志」という感覚

午後、この日は打ち合わせのため、職人さんの元へ。

協力隊の活動として、伝統工芸の紹介や商品開発などのプロジェクトをしている。
この職人さんは、花巻に来た頃からとてもお世話になっている台焼(だいやき)という焼き物の職人さん。陶芸をよりもっと知るためにお茶のお稽古場を紹介してくれたり、仕事以外にもお世話になっている。

台焼は125年の歴史がある花巻の窯元で、ここはこちらの職人さん1人でやっている工房。
この台焼の職人さんは、他の工芸の職人さんを紹介してくださったり、お茶や薪窯など普段見ることができない世界を見せてくれたり、とにかく特別な存在。今まで生きてきた中で表すことのできない関係性。

”台焼を残す”という目的に向かって進む意味では、「弟子」ではなく「同志」という感覚だ、と職人さんは言っていた。今は工房の体験なども任されている。

 

 

次の販売会に展示するときのために、陳列のレイアウトを職人さんと決めた。
素焼きの段階でも出来上がりの色味などはわかるので、制作途中の段階で打ち合わせて決めてしまう。

 

 

16時、仕事を終えて市役所を出る。
この時は一回市役所に戻ったが、取材などで職人さんの工房から直帰することも多い。

地域おこし協力隊の業務は、週30時間という契約なので1日6時間勤務が原則。9時に始業したら、16時頃には仕事が終わる。

 

 

職場から20分ほど音楽を聴きながら

16時過ぎに帰宅。職場から20分ほど音楽を聴きながら運転すると家に到着。
気分転換にはちょうどよい時間。

 

 

帰宅後、家では工芸の勉強をしたりインプットの時間に使う。職人さんが工芸に関する本を貸してくれるので、それを見て勉強する。

この本は工芸展の図録で、漆職人さんから貸していただいた。
もともと伝統工芸が好きでこの仕事をしているので、仕事とプライベートの境目があまりないけれど、それも良い。

 

 

何も考えずにぼーっと眺める時間

ふと、家でリビングから外を見た。
リビングからの風景がなんとも良い。何も考えずにぼーっと眺める時間は無になれて心地よい。

 

 

夜、彼女が帰ってくる。

夕食はそれぞれ別々でとっているが、夜に仕事などの話をする時間を作っている。彼女と仕事の分野は違うが、似ているところがあって相談したりする。

 

 

商品開発の一つで風鈴づくりを家で

これは商品開発の一つで風鈴づくりを家で取り組んでいる様子。
オール花巻の工芸品で作る予定で、外見と舌(ゼツ)と呼ばれる部品は台焼、風を受ける短冊は花巻の和紙で作る。

東北では冬の農閑期の収入源として手仕事が馴染んでおり、民芸品や工芸品が多くある。花巻もそうした町の一つで、あまり知られていないが焼き物から和紙、漆とあらゆる職人がいる。どの工芸品も素晴らしいものだが、作り手が少なくなってきている。

 

 

週に1回、平日の仕事帰りに遠野までドラムを習いに行っている。
遠野までは車で40分ほど。レッスンは夜から行うため、いつもより遅く帰ることになる。

 

 

お茶を習ったきっかけは台焼職人さんからの紹介

週に1回、お茶も習っている。お稽古は4時間ほどかかるため、お茶に集中できる時間をとるよう工夫する。
この日は家でお稽古の自習。コロナが流行ってからはお教室が休みになってしまったので、家で借りた道具を使って自習している。
先日お稽古は再開したが、コロナの影響もあってお茶の所作である回し飲みはしなくなっている。

お茶を習ったきっかけは台焼職人さんからの紹介だった。お茶ではたくさんの工芸品を使うので、お稽古を通じて工芸品に直接触れることもでき、勉強にもなるので始めた。ひとつひとつの所作に決まりがあって難しいけど、奥が深く面白い世界だと思う。地域おこし協力隊の任期が終わっても、続けていきたい趣味の一つになっている。

 

 

週末の土曜日、作家さんと職人さんと3人で花巻の土曜夕市に出店した。

市場自体は昔からやっているが、今回はコロナで営業が困難になっている事業者の人たち向けに実施された。飲食店が多く出店されているなか、自分たちは工芸で出店していて異色だった。

 

 

台焼の工房で、今度行うお茶会の参加者の人たちと陶芸をした。

花を生ける方だったり、農家でカフェを運営する方だったり、みなさん陶芸を本職にしている人ではない。お茶会ではそれぞれの本職で参加していただく予定。

 

 

髪を切るのと本を買うのは盛岡。休日に行く。

高校のときに過ごしたのは盛岡で、書店はその時から行っている思い出深い場所。髪を切るのも盛岡で、細かいところまで気を遣ってくれるところが良くて通っている。

 

 

山の中で面白そうな謎の道を見つけては探検する

休日には気に入っているダムまでドライブに行くことも多い。

田瀬湖という家から車で20分くらいのところにあるダム湖がお気に入り。人がいない駐車場に車を止めて寝たり、本を読んで気分転換する。

ダム湖以外にも山の中で面白そうな謎の道を見つけては探検するのも好き。今回見つけた道は行ってみたら昔の城跡だったことを後で知った。山道をドライブしていると、こういう道がちらほらある。

疲れた時など、こうした気分転換の時間を設けるのを大切にしている。

 

(聞き手:カトウ ミワコ)

 

花巻にはこれからもずっといて、工芸に携わっていきたい。台焼はその中でも特別な存在で、継承していきたい工芸。目指すは作り手の気持ちも持った台焼のプロデュースや経営をしていく人になっていきたいと思っている。